東京高等裁判所 昭和57年(ネ)990号 判決
1 本件各手形について受取人である株式会社大晃(以下「訴外会社」という。)から星野に対して裏書がされていること及び星野が訴外会社の代表取締役であることは当事者間に争いがない。原審証人星野敬、同樋口福男の各証言によれば、右裏書について訴外会社の取締役会の承認が存在しないこと及び被控訴人がその事実を知っていたことが認められる。
2 ところで、商法第二六五条が株式会社と取締役個人との間の取引について取締役会の承認を必要とするものと規定している趣旨は、会社と取締役との間で利害の対立する取引について、取締役が会社の不利益において私利をはかることを防止し、会社の利益を保護することを目的とするものであるから、第三者が会社を受取人として約束手形を振出し、会社が取締役会の承認を得ないで右約束手形を取締役に裏書譲渡し、取締役が更にこれを他人に裏書譲渡した場合において、右取締役からの裏書譲渡を受けた約束手形の所持人が会社に対し裏書人としての責任を追求するときには、会社は、同条の規定を援用して、原則としてその請求を拒むことができるものと解されるが、右約束手形の所持人が第三者である振出人に対し直接その責任を追求するときには、同条の規定の趣旨に照らし 右振出人が同条の規定を援用して会社の取締役に対する裏書の無効を主張することは許されないものと解するのが相当であるから 控訴人は 被控訴人に対し、訴外会社のその取締役星野に対する本件各手形の裏書が商法二六五条の規定に違反し無効であることを主張して、本件各手形金の支払を拒むことは許されないものというべきである。
(香川 越山 吉崎)